【最新のファイナンス理論】CEOが陽キャだと資本コストが上昇する?

中西哲 PhD, 江戸川大学教授
経営者が陽キャになると資本コストが上昇する?!
「明るい経営者」「話しやすい社長」「前向きでエネルギッシュなトップ」。
一般的には、こうしたいわゆる“陽キャ”な経営者は好意的に受け止められがちです。社員のモチベーションを高め、対外的な発信力も強く、成長企業のイメージとも重なります。
近年の海外のファイナンス研究では、経営者が陽キャであるほど、企業の資本コストが上昇する可能性があるという、興味深い結果が示されています。
この研究は、サンディエゴ大学の Adebambo、チャップマン大学の Bowen、ワシントン大学の Malhotra、カナダのウォータールー大学の Zhu という4人の研究チームが、2024年に Journal of Financial Research で発表した論文で報告されました。
Adebambo, B., Bowen, R. M., Malhotra, S., & Zhu, P. (2024).
“CEO extraversion and the cost of equity capital”
Journal of Financial Research, pp.1–40
ここでいう資本コストとは、株主が企業に対して求める期待リターンのことです。この「資本コストが上がる」という表現には、実は二つの意味が含まれています。
一つ目は、
「この会社に投資するなら、これくらいのリターンは最低限必要だ」
という意味です。
経営が積極的でリスクも取りそうだと感じれば、投資家はその分だけ高い利回りを要求します。
二つ目は、
「この会社は高いリターンをもたらしてくれそうだ」
という期待の裏返しでもあります。
成長機会が多く、リスクはあるものの成功すれば大きな成果が見込める、そうした企業像が想起される場合にも、結果として高い期待リターンが設定されます。
つまり、資本コストの上昇は、
リスクが高いと見られている側面と、
高い収益機会を持つと見られている側面の、
両方を含んだ資本市場からの評価なのです。
この論文は、「経営者の性格」という一見あいまいな要素が、資本市場でどのように数値として織り込まれているのかを、実証的に明らかにしようとしています。
陽キャ特性の測定方法
「言葉の使い方から性格を読み取る」
この研究の大きな特徴は、経営者の性格を印象や主観で測っていない点にあります。
分析対象となるのは、企業の決算説明会における質疑応答、いわゆるQ&Aパートです。事前に用意された説明文ではなく、アドリブ性の高いQ&Aに注目することで、経営者本人の話し方や言葉の選び方がより強く表れると考えられています。
分析には、心理学分野で広く使われている LIWC という言語分析ツールが用いられています。LIWCは、文章中の単語を心理的なカテゴリーごとに分類し、その使用頻度を数値化します。
外向的、つまり陽キャな人ほど使いやすいとされる代表的な英単語には、次のようなものがあります。
ポジティブな言葉の例
great
excited
confident
opportunity
strong
successful
また、社会性を示す言葉も多用される傾向があります。
we
our
team
customers
partners
一方で、外向性が低い、あるいは慎重な話し方と結びつきやすいとされるのが、次のような言葉です。
ネガティブまたは抑制的な言葉の例
maybe
possibly
might
concern
risk
uncertain
こうした単語の使用比率や、発話量そのものを組み合わせて、経営者ごとの外向性スコアが作られます。
ここで重要なのは、この分析が、経営戦略の良し悪しや業績の成否を評価しているわけではない点です。
あくまで見ているのは、どんな言葉を、どのような調子で使っているかという、話し方の特徴だけです。
資本コストの測定方法
「市場が求めるリターンを逆算する」
次に、資本コストの測り方についてです。
この研究では、CAPMなどの理論モデルを用いて資本コストを計算しているわけではありません。
使われているのは、IRR、つまり内部収益率の考え方です。
考え方はとてもシンプルです。
現在の株価は市場で観測できます。
将来の利益については、アナリスト予想などから想定することができます。
そこで、将来の利益をどれくらいの利回りで割り引けば、今の株価になるのかを逆算します。
そのときに求められる利回りが、投資家がその企業に対して要求している期待リターン、すなわち資本コストです。
実際に実現した株価の動きではなく、
市場が今この瞬間に織り込んでいる期待を測っている点が、この手法の特徴です。
そしてこのIRRを用いた分析の結果、次のような結論が得られています。
「経営者の外向性が1標準偏差高まると、企業の資本コストは年率でおおむね0.3%前後上昇する。」
これは、資本コストが仮に8%程度の企業であれば、8.3%前後に引き上げられるイメージです。
わずかな差に見えるかもしれませんが、企業価値評価では無視できない水準です。割引率が数十ベーシスポイント変わるだけで、理論的な企業価値は大きく動きます。この研究から得られる示唆
この研究から得られる示唆
「経営者の陽キャ特性は、期待とリスクの両面を持つ」
研究の結果を簡潔にまとめると、次のようになります。
経営者の外向性が高い企業ほど、投資家は高い期待リターンを要求する傾向がある。
これは、
積極的な投資やM&Aを行いそうだ
経営判断の振れ幅が大きそうだ
トップ個人への依存度が高そうだ
といったイメージが、投資家の側に生まれるためだと考えられます。
一方で、それは同時に、
大きな成長や高い収益を生み出す可能性がある
と評価されていることの裏返しでもあります。
つまり、陽キャな経営者は、
低リスクで安定した経営者というよりも、
ハイリスク・ハイリターン型の経営者として、
資本市場から見られやすいということです。
実務的には、前向きなストーリーだけでなく、リスク管理やガバナンス体制についても丁寧に伝えるIRが重要になります。
投資家は、経営者の語り口や雰囲気からも、企業のリスク特性を感じ取っています。
経営が属人化していないことを示す組織設計や仕組みは、資本コストの抑制にもつながります。
経営者のキャラクターは、もはや単なる個性ではありません。
資本市場では、それがリスク評価や期待リターンの形成に組み込まれています。
資本コストをいかに測定するか、という点にCAPMのように市場全体の値動きに対する感応度であったり、財務的な数値ではなく、経営者の外向性に求めるという点がとても興味深いです。実は世界最先端のファイナンス研究ではこうした研究が相当積み上がってきているようです。
今後、紹介していきたいと思います。
資本市場レビュー 中西哲研究室
博士(経営管理学) 大学教授/財務アドバイザー/金融アナリスト
最新のファイナンス理論、資本市場のトピックスを発信。
江戸川大学教授、立教大学・跡見女子大学でも教鞭/中西事務所代表(中小企業庁認定M&A支援支援機関)/SESSAパートナーズシニアアナリスト
2026年1月20日
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