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ESG関連情報開示~金融行政方針の変化から読み取る今後の方向性​(山中威人)

過去5年程度の金融庁の行政方針から、ESGやサステアビリティに対する取り組みの推移を確認し、今後の金融庁の行政方針の方向性を考えてみた。

外部環境に変化はあるが、取組み姿勢に変化なし

ロシアによるウクライナ侵攻等にともなうエネルギー価格高騰やそれに対する各国の対応や、ESGファンドのパフォーマンスの悪化などを背景に、ESGやサステナビリティに対する取り組みが後退するような見方がある。また、 GFANZ(グラスゴー金融同盟)が設立1年経過後に、厳格な姿勢を若干軌道修正する動きもあったが、金融庁にはサステナビリティに対する積極的な取組み姿勢を修正するような気配はない。

長期的な目標をクリアするための環境整備はむしろ加速する方向

企業に求める開示強化や、金融機関に求めるサステナビリティ支援への要求は更に高まる兆候が見られる。これまでの金融庁の行政方針全般に見られる、原則を維持する姿勢と軌を一にするものに見える。むしろ日本の取組みが、他国に劣後しないように、積極的に環境整備を進めているのではないか。

行政方針でのサステナブルへの言及は年々拡大

コーポレートガバナンス改革から、サステナビリティの改善のため、企業と投資家の対話のすすめる、そのための材料としての開示を制度的に拡充するための環境を整える方向に進んでいる金融機関に対しては、企業がサステナビリティの取り組みをすすめるための支援強化、長期的な取り組みのためのトランジションファイナンス強化を要請している。

これまでの行政指針での言及 : 2020年まで

コーポレートガバナンス改革が論点の中心から、徐々に言及する範囲が拡大し、非財務情報の法令に基づく開示、法令に基づく開示以外の情報提供にも言及。また、人口減少や顧客の高齢化、低金利環境の継続、コロナ禍の世界的拡大や自然災害の多発・激甚化、デジタライゼーション進展などの変化を踏まえ、金融機関には持続可能なビジネスモデルの構築が重要と言明。企業が、中長期的な企業価値の向上のための取り組みを積極的に投資家と対話し、それを開示する仕組み作りをすすめるとした。

行政指針での言及 : 2021年

カーボンニュートラルを実現するためのトランジションも含め企業の取組みが適切に評価されるため、企業情報開示の質と量の向上が必要と指摘。中長期的な企業価値の向上に向けた企業と投資家の建設的な対話に資するガバナンス情報が提供されるよう、取締役会等の活動状況、人的資本への投資等に関する開示のあり方を検討すると、これまで進めてきたガバナンス強化と開示の強化を結びつける。

行政指針での言及 : 2022年

投資家と企業との対話の促進のため、重要提案行為の規律のあり方など、大量保有報告制度等について検討課題の整理、企業のガバナンスに不可欠な内部統制については内部統制の実効性向上に向けた検討を行うとしている。

投資家と企業との建設的な対話を促進し、コーポレートガバナンス改革を⽀える観点から、企業情報の開示の充実に向けた取組みもあわせて進めることが重要であると、開示強化のさらなる推進を言明している。

特に人的資本については、それが企業の持続的な価値創造の基盤であり、また投資家からの人的資本に関する情報のニーズも高まっているとし、有価証券報告書において、人材育成方針、社内環境整備方針、男女間賃⾦格差、女性管理職比率を含む非財務情報の開示の充実を図ると同時に、開示の効率化の観点から、⾦融商品取引法上の四半期報告書の廃止と取引所規則の四半期決算短信への一本化の具体策を検討し次期通常国会に関連法案を提出するとした。11月の内閣府令の改正を予想させる表現となっている。

また、トランジションファイナンスの推進を強調している。投資家・金融機関が、脱炭素化に向けた取組を行う企業の競争力強化を実現するため、企業とエンゲー ジメントを行う際に使用する実務的な手引きである「エンゲージメント・ガイダンス」を策定し、2023年3月までに公表する方針とした。

企業の開示強化と投資家との対話

11月に発表された、有価証券報告書へのサステナビリティ全般に関する開示、人的資本と多様性に関する開示の改正案も、ほぼ金融庁が想定したタイミングで進んでいる。場合によっては今後、更に詳細な開示が求められる可能性も想定される。

脱炭素等にむけた金融機関の取り組みに関する検討会の進捗

検討会では、以下の三点を主に議論するとしている。

① トランジション等に係る国際的な動向と実例、

② 地域における脱炭素等の取組み、

③ 金融機関が脱炭素に向けて行う取組みの考え方や有用な留意点や取組事例

金融機関における気候変動への対応については、今年の7月12日に「金融機関の気候変動への対応についての金融庁の基本的な考え方(ガイダンス)」を公表。

そのガイダンスの中で、地域における脱炭素については、金融機関や公的機関等が連携し、企業に対し面的な支援を図ることが重要とした。

気候変動関連で、スコープ3までのカバーを想定した、東海地方のトヨタ系中心のサプライチェーンでの取組を紹介している。こうしたサプライチェーンの中の中小企業での対応につて、中小企業がその重要性を認識しているが対応を実施・検討できていない現実から、地銀に対しても取組みの強化を求めている。

国際動向については、GFANZの活動やTPI(Transition Pathway Initiative)やPCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials)を紹介している。

PCAFが2020年11月に、GHG排出に関連するリスク管理、機会特定の出発点としてファイナンスドエミッションの測定手法に係るPCAFスタンダードを公表したこととその概要を紹介している。

ファイナンスドエミッションは、金融機関のスコープ3とされ、投融資先の資金調達総額に占める自社の投融資額の割合に投融資先のGHG排出量をかけ合わせて計測するもの。国際的なイニシアティブ(NZBA等)に参画する金融機関の多くは2050年にファイナンスドエミッションをネットゼロにすることを目指している。

インパクト投資等に関する検討会の進捗

日本のインパクト投資の残高は増加しているが、他先進国と比較すると投資規模はまだ小さく、成長の余地がある。これまで以上に投資の拡大を図れば、各投資が企図する社会・環境課題の解決に貢献しつつ結果的にスタートアップを含む新たな事業創出につながるという見解を示している。その上で、インパクト投資に関する実務指針を提示したい意向が見える。検討会は現在行中で、今後どのような方向性が打ち出されるか、注目したい。

2022年12月4日

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