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松島憲之
SESSAパートナーズ
チーフアドバイザー
​2021.11.9

衆議院議員選挙の結果の裏読みと安全保障強化の流れ

選挙結果

 衆議院議員選挙は、事前の予想を覆して自民党が絶対安定多数の261議席(15減)を、公明党が32議席(3増)を獲得し、政権与党は292議席(12減)となった。保守政党による政治の安定が維持されたことは、混とんとする世界情勢の中で安心感をもたらそう。野党で飛躍したのは維新で41議席(30増)を獲得し野党第2党になり、共産党と選挙協力をした野党第1党の立憲民主党は96議席(13減)にとどまった。

岸田内閣がこの選挙で名実ともに国民の信を得たわけだが、選挙結果を振り返ると色々面白い現象が垣間見える。

 

予想が大外れした理由

 私もTVの選挙速報番組を見ていたが、ほとんどのTV局が当確予想数字を間違えた。立憲民主党の躍進と自民大敗がメインシナリオだったが、結果はその逆。予想を外した理由として、出口調査で嘘の回答をした人が多かったという説まで出ているが、ビッグデータを活用するAI分析では、元データが間違っていたら正しい答えを予想しようがない。企業活動でも事前予想が全く外れると致命的な損失を生む恐れがあるので、データ収集の精度チェックの重要性を再認識させられた。

 

ベテラン議員の落選の要因

 自民党や立憲民衆党では重鎮の小選挙区での落選が話題となった。自民党では元環境大臣や自民党税制調査会最高顧問などが落選。選挙前のラジオ番組では、落選した元環境大臣が省令で強引にレジ袋を有料化したことを責める声や、増税擁護の財務省寄りの考え方の議員への反発発言が聞かれたし、これがネットを介して若者に浸透したのかもしれない。立憲民主党でも週刊誌をネタにした政府の批判しかしなかったベテラン議員の落選が目立った。地元を回る選挙活動も大事だが、自身の政策をはっきり述べ、ネットをうまく活用してポジティブな影響を拡大する手法の重要性が浮き彫りになったと言えよう。逆に、候補者にとってネガティブな材料があるときは、それが強調されてすぐに拡散、これが破壊的効果を生んだ。これらの事例は、ネット活用が重要な戦略になった企業活動にとってよい反面教師になる。いかにして消費者の共感をつかみ取るかが重要なポイントだ。

 

立憲民主党と共産党の連携と連合の反発

 立憲民主党は共産党との選挙連携を嫌った連合の影響が大きい。そもそも労働組合活動の歴史を紐解けば、連合と共産党系組合が相いれないことは常識だ。最大の選挙母体である連合の不快感を軽く見たのか、枝野代表は共産党との連携を進めた。一部の小選挙区で勝利したものの、比例区での得票が伸びなかったのが致命傷になった。かつて民主大国と言われた愛知県では、トヨタ労組が立憲民主党と距離を置いたことが象徴的だった。提携には必ずプラス面とマイナス面があるが、今回はマイナス面の大きさを見誤ったのだろう。反自民票は多くが立憲民主党に集まるという甘い考え方だったのかもしれないが、現実はそうはいかず、大阪で躍進した維新や国民民主党がその受け皿になった。また、今までなかった労働組合の新たな決断として、共産党と組む立憲民主党より、政策に期待できる自民党を労働組合の選択肢に受け入れた影響もあるだろう。企業も生き残りのために色々な提携を模索せねばならない時代になったが、提携によるポジティブ効果を拡大解釈せずに、ネガティブ効果をしっかりと測定する冷静さが必要だという点を、改めて学んだ。

 

安全保障重視の岸田内閣

 岸田内閣での注目点は、新たに経済安全保障担当大臣を置いた点である。中華人民共和国を念頭に、安倍内閣で閣議決定された国家安全保障戦略(NSS)の改定を進め、日本周辺の安定を図る政策を進めるのは当然だろう。

 自民党の新体制では、安全保障に対して厳しい見解を有する高市氏が政調会長に就任、幹事長も経産大臣時代から安全保障を積極的に政策に入れた甘利氏で、安全保障体制を大きく進展させる計画だったはずだ。残念ながら、小選挙区で落選した甘利氏が幹事長を辞任したが、この方針は不変だろう。ウイグルや香港での人権弾圧を念頭に、岸田総理は新たに人権問題を担当する補佐官に、人権侵害に対して制裁を科す法案の成立を目指していた中谷氏を起用する方針のようで、これも安全保障での重要な布陣と言える。

 

習近平は毛沢東のような絶対権力者を目指す

 中国共産党の習近平主席は6中全会(第19期中央委員会第6回全体会議)で結党から史上3度目の『歴史決議』(1945年毛沢東、1981年鄧小平)を採択して、毛沢東と同じステージに昇り長期政権への足場を固めようとしている。習近平は、毛沢東や鄧小平が実現できなかった台湾併合の野望を、自身の神格化のために試みる可能性も高まっている。まさに、安全保障の強化が問われる時代なのだ。

 1989年のベルリンの壁崩壊に象徴される東西冷戦の終結以降、30年間で現在のグローバル経済体制が構築された。ソ連崩壊後に、西側からの人の移動、モノの輸送、技術の移転などがしだいに自由化され、低コスト生産が可能な地域での大量生  産が増加した。

 その過程で、安い労働力を武器に台頭したのが、ソ連崩壊を反面教師にした中華人民共和国だ。日米欧の先進国は、低価格生産を中国に依存し、サプライチェーンの重要拠点として組み込んだが、中国共産党の長期戦略で、中華人民共和国は西側から先端技術をただで学び経済大国化し、同時に軍事力も大幅に強化した。

 

ブロック経済化が進展

 しかしながら、脅威となった中華人民共和国の力を削ぐため、今後は現在のグローバルサプライチェーンが大きく見直されるだろう。中国経済圏(レッドブロック圏)と日米欧中心の経済圏(ブルーブロック圏)がデカップリングされる動きがすでに最先端技術の半導体などから始まったが、日本企業もブロック経済化に対応する戦略を早急に進めねばならない。

 日本の企業経営者は安全保障についての[SH2] が甘く、特に対中関係では中国共産党に利用されがちな傾向が強い。すでに米国の企業は、中華人民共和国からの撤退を実行するケースが増加している。個人情報の海外持ち出し制限を強化したな法律制定の影響もあり、最近ではヤフーが撤退、今後も色々な分野での撤退が続くと予想する。

 

情報管理体制再構築が急務

 特に注意を払わねばならないのは中華人民共和国国家情報法(2017年6月施行)である。これは、あらゆる組織・個人に対して情報活動への協力を強制するもので、先に成立している国防動員法の情報版である。中国共産党に協力しろと言われたら重要な秘密情報を提出せざるを得ないという法律だ。米国、豪州、西欧諸国はこの法律を懸念しているが、米国はスパイ行為を警戒し2019年国防権限法でファーウエイなど中国企業5社に対する政府調達禁止が織り込まれた。日本も外為法を改正して対応はしたものの、本格的なスパイ防止法の制定などを目指すべきである。

 また現時点では、日本企業の情報管理はほとんどが一元管理だが、これを早急に見直し、中国と非中国に分離された情報管理体制に再編する必要がある。これを行わないと、中華人民共和国国家情報法への十分な対応ができないはずだ。

中国国内での生産体制のみならず情報管理体制まで見直すと膨大なコスト負担になるだろう。その実行をためらう企業もあるかもしれない。しかしながら、最近までの動きから見て、中華人民共和国との生産や情報の分離体制の確立が取引の必要条件となる可能性がさらに高まると考える。

 気候変動についても、数年前まではコストが膨大なため対応をためらった企業が多かったが、それが今では持続的成長に不可欠の条件となっている。おそらく経済安全保障も、気候変動と同様に、2025年以降の生き残りの必要条件となる可能性が高い。それ故、対応は素早く、今から実行するのが無難だ。