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松島憲之
SESSAパートナーズ
チーフアドバイザー
​2022.3.14

四半期決算開示を廃止し、知財戦略の説明などに時間を活用すべき

四半期決算開示を廃止し、知財戦略の説明などに時間を活用すべきSESSAパートナーズ チーフアドバイザー松島憲之 岸田首相が新設した「新しい資本主義実現会議」では、四半期決算開示の見直しが議論すべきテーマの一つになっている。金融庁の審議会でもこの議論をスタートしたが、今春までに結論を出すようだ。

 

四半期決算開示の見直しがスタートするのは、四半期決算が投資家や企業経営者を短期思考化させたという懸念が欧州で主流化したからだ。英国では実験的に導入した四半期開示をすでに廃止しており、法的義務を廃止する動きが欧州では主流となっている。最近は財務情報だけではなく、気候変動やガバナンスなどの非財務情報の開示も求められるようになってきており、企業の事務負担の軽減を図る配慮もある。英仏独では四半期決算開示の法的義務を廃止したが、四半期決算開示が必要だと考える企業は独自の判断で四半期決算を開示しており、これが今後の日本の情報開示でもあるべき姿なのかもしれない。

 

日本では2003年に証券取引所が上場企業に対して制度化して現在に至っている。四半期決算開示導入の前に、どのような財務情報をどのような形で四半期決算として開示すべきかを議論する「四半期財務情報の作成及び開示に関する検討委員会(委員長首藤恵中央大学経済学部教授(当時)」を東証が立ち上げた。私も当時は日本証券アナリスト協会のディスクロージャー研究会の座長を務めていたので、その立場で委員として議論に参加して、現在の決算短信での四半期決算開示のひな型などを策定した。企業側の代表として経団連からも専務理事が、弁護士や会計士なども委員として参加していた。私はアナリストの立場から、できる限り本決算に近い細かい財務情報の開示を求めたが、経団連の専務理事は企業サイドから細かい開示に反対、企業が収益予想を出すことについても四半期決算の先駆者である米国の実例から廃止の意見を出していた。

 

当時は、非財務情報についての開示などは全く考慮されず、財務情報をいかに開示するかに焦点が置かれていたが、今はむしろ非財務情報の開示が重要視されているので、議論の焦点は全く異なる。

 

四半期決算廃止の意見を投資家に問うと、相変わらず存続派が多数を占める。開示される財務情報は、年4回の方が直近のものが手に入り、安心感を生むからだ。昔ながらの財務情報中心の投資ならこれで十分だろう。古い考えの人は、四半期毎に確実に公表される財務情報が手に入らなくなることで、情報開示が後退するという意見で反対するだろう。一見、これが正しいように思う人が多いかもしれないが、本当にそうなのか疑問だ。企業の持続的成長を長期で考えるには、技術力やそれを生み出す人材育成などを知る必要がある。誰もが手に入れることができる財務情報開示よりも、それを生み出す背景となる外部からは把握しにくい非財務情報の開示が増えるほうが、企業の将来の成長性の見極めに役立つはずだ。このような考えの人が積極的に四半期決算見直しの意見を述べることを期待したい。

 

私が四半期開示で最も危惧している点は、投資家と企業の対話時間の減少だ。投資家にとって重要になってきた非財務情報の情報取得には、企業との対話が絶対に必要なのだが、この点についての指摘は四半期決算開示の議論の中には多分出ていないだろう。開示の公平性のために設けられたサイレント・ピリオド(沈黙期間)と呼ばれる企業と投資家が会わない期間は、年2回決算なら2ケ月だが四半期決算では4ケ月になる。さらに、法人関係情報規制強化の影響で、証券会社所属のセルサイド・アナリストなどは、決算月の16日以降は企業訪問を自主的に控えるようになっている。月末近くの訪問は、決算の着地情報を入手するためではないかと、監督官庁である金融庁などから勘繰られるのを避けるための防衛措置だ。これも含めると、四半期決算を実施することで証券会社のセルサイド・アナリストなどは6ケ月間企業との対話ができなくなっているのである。

 

このような状況が正しいのだろうか。最近は財務情報の裏に潜む非財務情報の重要性が強く認識されてきている。有価証券報告書や決算短信などにもわずかだが記載されるようになってきた。しかしながら、非財務情報は企業との対話の中でモザイク情報として手に入れるものが大半だ。工場見学や研究施設見学、技術説明会、経営者とのミーティングなどは非財務情報を取得する重要な機会だ。四半期決算が個別訪問などによる投資家と企業の深い対話を阻害する最大の要因になっていると考えれば、義務化の廃止は当然の方向であろう。では、どのような手法で非財務情報を開示して投資家との対話を増やすべきなのか。このような悩みを持つ企業が多くなっているのも事実だ。その一つのソリューションを提供するのが、内閣府知的財産戦略推進事務局が1月末に公表した「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」である。

 

「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン(略称:知財・無形資産ガバナンスガイドライン)Ver.1.0」の詳細は、以下の内閣府のホームページで詳細が確認できる。

 

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/governance_guideline_v1.html 

 

私もこの作成にかかわる委員を務めていたが、このガイドラインの目的は、投資家や金融機関等との建設的な対話をより深く行うための具体的なツールとして活用してもらうことにある。

 

SESSAパートナーズでは、3月29日(火)12:00~13:00に、この新たな潮流をいち早く顧客の皆様に報告させていただくため、内閣府知的財産戦略推進事務局の川上参事官を招いて「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」をわかりやすく解説させていただく予定である。司会のSESSAパートナーズの飯塚チーフストラテジストは、ここで学ぶべき重要ポイントを最初に指摘するので、企業と投資家との建設的な対話を進めたいと考える方には是非参加していただきたいと思う。

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